世界でいちばん 不本意な「好き」



付き合っていたころ、自分と似ているショーマとなら、いつまでも一緒にいられるんじゃないかと期待した。

それはただのまやかしで、ショーマはわたしを置いて、変わっていくことを選んだ。


だけどそれを後ろめたく思っているのか気にかけてくるのがくやしかった。相手に選ばれたのが寧音なところも気に入らない。気に入らないのに、寧音ならしかたないなって思っちゃう。またそれも苦痛で。


別れたのも「なんだよ」「ざまあみろ」って思ったし、それなのに別れてからも元に戻るどころか見る影もないみたいなショーマに……あきれただけだよ。

勝手なんだよ、わたしも。


「優しいって言いかたがいやなら…おせっかいやきはどう?」

「どうって…」

「アリスはおせっかいやき」

「その言いかたもむかつく」

「え、なんで!?」

「なんか悪口っぽいもん」

「はは。褒め言葉が苦手なら悪口でいいじゃん」

「……」


本当に、こんなに調子を狂わせられるひとははじめてだよ。

もうなんでもいいや。どうでもいい。あのふたりはさっさとどうにかなればいいし、このひとの言葉も深く考えない。そのほうがきっと都合がいい。



「そういえば、…佐原さんと一緒に弾いてた人って誰?」

「あ、そっか、ふみとは知らないよね。寧音のお姉ちゃんでチウガクのピアノの先生だよ」


ピアノの授業は3年ではないから関わらないと思うけど。


「上手だったでしょ」


個性はあるのに合わせやすくて、とにかく音が澄んでいる。

音彩先生と寧音の弾きかたや音質はすごく似ているから、よく連弾で賞をとってるんだ。


「…うん。すごく」


そうつぶやいた瞳は、どこか懐かしさを帯びている気がした。