世界でいちばん 不本意な「好き」



ピアノの話はしたくない。

ふみとは自分が好きだからか、それともわかっているのか、妙にピアノの話をしてくる。


せっかくかわいくない言いかたをしてしまったことを反省しようとしていたのに。


…そりゃ、携帯やテレビからあれだけ綺麗に聴こえてきたら、生の音だって気になってくるに決まってる。


それでもライブに行ってないって、深入りする気はないって遠回しで言ったつもりだった。


「はじまるね」


マスクで覆われた凹凸。苦手だと言っていた伊達めがね。深く被さったツバのある帽子。

それなのにどうしてうれしそうな顔をしているとわかるようになったんだろう。


ロックバンドらしく激しく鳴り出した楽器たちが、まとめるのがむずかしそうな心のなかを表しているみたいだった。



ライブ会場を出るとボロボロになってショーマが立っていて、思わずふみとと目を合わせた。


「いやー……ほんっとうにごめん!!ふたりとも来てくれたのに悪かった!!」


バシンッと手を合わせて何度も頭を下げてごめんと悪かったを繰り返しつぶやく見慣れない姿に、ふみととわたしはけっこうたじたじになりながら「なにがあったの」と言うしかなかった。


時間通りにスタートしたライブは全6曲とわりと本格的な公演になるはずだった。

それなのに3曲目と4曲目の間に入ったボーカルのMCが台本通りじゃなかったらしくドラマーの機嫌が悪くなったのはなんとなくの空気感で伝わっていた。


わざとらしく大っぴらに大々的にみんなの前で「正式にうちのギターにならないか」とショーマを誘ってきて、それに対してショーマがやんわり断ったことでボーカルの機嫌も悪くなり、4曲目でベースが音を間違えたことでステージ上はもみくちゃの喧嘩になった。


……のがついさっきまでの出来事。

ミスりはしなかったけど喧嘩はした。