世界でいちばん 不本意な「好き」





はじめて入ったライブハウスは地下にあって昼間から切り抜かれたような異空間に思えた。

きょろきょろしていると「こっちのが落ち着いて見られるかも」と手を引かれる。完全な不意打ちに、びっくりして心臓が跳ねた。


「…あ、本当だ。ここ人少ない」

「みんな真ん中で見たいんだよ。でもギターはここからのほうが聴きやすいと思うよ」


すぐに手が離れて、思わずほっと息をつく。


「はじめて?」

「あ、うん。ふみとはある?」

「あるよー。エンモアってバンドわかる?」

「うん、好き。ライブ行ったりはないけどよく聴くよ」



大人気バンド、EveN more(イーブン モア)。略してエンモア。

ピアノヴォーカルとギター、ベース、ドラムの4ピース。ドラムは紅一点。背低いのに身体いっぱい使ってドラム叩くところがかっこいい。

それに、ピアノが、とくに良い。


「アリス好きなの?同じ事務所で仲良いんだけど、エンモアは今でも地元の小さいハコでライブしたりしててよく聴きに行ってる。今度一緒に行こうよ」


青いライトに照らされたうれしそうな顔が見下ろしてくる。


「ショーマのならまだしもなんでエンモアのライブにふみとと行かなきゃならないの」


うわ、かわいくない言いかた。

そう思っていたら、頭の上を広い手のひらが軽く弾んだ。


瀬崎十季(ボーカル)の音は生で聴くとさらに良いよ。だからアリスと聴きたい」

「…ピアノには興味ないってば」

「はいはい。ま、気が向いたら考えてみてよ」

「……」