世界でいちばん 不本意な「好き」



制服のポケットから寧音に渡されたチケットを出す。ぐちゃぐちゃにしたせいでひび割れていたけど日時はちゃんと読めた。


「ライブと同じ日だ」

「あー…うん」

「でもこっちは夕方からだから間に合いそう。よかったね」


その言葉に首を横に振る。


「行かないよ。せっかくライブ見に行くっていうちょうど良い理由ができたんだから」

「なんで、」

「…ピアノなんて興味ない」

「…ふうん」


いや、なんか、しおらしいな。


「なんか言ったら?どうせ隣の席で聞き耳たてて気になってるんでしょ」

「人聞き悪いなあ。せっかく反省して我慢してんのに」

「ぎゃくにきもちわるいんだってば。答えたくないことには答えないけど、聞きたい気持ち横で耐えてる顔されるの無理なの」

「じゃあお言葉に甘えて……アリスってツキコって名前なんだ」

「え、」


予想外の台詞。

だって……気になってたの、そこなの?
眉間にしわが寄ったのが自分でもわかった。


「これからはツキコって呼んでいい?みんな呼んでないから呼びたい!」


そんなわたしにはお構いなしで、身を乗り出して聞いてくる。名前なんてどうだっていいでしょ。なんでそんなにうれしそうなの?


「却下。絶対嫌。名前は本当に嫌だからやめてね」

「せっかく可愛い名前なのに」

「どこが。渋いし、どうでもいい名前だよ。わたしは大嫌い」



思い出したくないことまで思い出す名前。



「佐原さんは呼んでんのにずりーな」


そう言うわりにはあきらめたような口調だ。今日はしつこくする気はないみたい。


「寧音は、幼なじみだからね、しかたないの。まあ呼ばないでって言ってるのに呼んでくるのはただのイヤガラセだと思うけど」

「幼なじみ?」

「うん」

「家近いの?」

「そうじゃないけど、これ以上は言いたくない。どうでもいいことだから」

「……そっか」


イヤガラセをしたいのは、ほんとうはわたしのほうだ。


寧音のことがうらやましい。
幼いころからずっと、そう思ってる。