世界でいちばん 不本意な「好き」



推しがいる生活ってものも、芸能人にハマるのも、その芸能人のスキャンダルに浮き沈みすることも、わたしからすれば「手の届かない、自分とはかけ離れた場所にいる人を想うなんて」って括りに入るというか…。

時間を費やしても無駄なんじゃないかなって思っちゃう。人それぞれだから否定したいわけじゃないけど。


まんがやアニメのキャラクターも然り。

自分のことを想ってくれない何かを想うって、不毛じゃん。

ただでさえ現実の“好き”だってむずかしいのに。



「アリス、なにぼーっとしてんの?」


校舎と体育館を繋ぐ渡り廊下を歩いているとショーマが話しかけてきた。

金色の髪が陽に照らされてまぶしい。


「…染めたの?」

「うん。似合う?」

「いやべつに…どちらかといえば青髪の時のほうが良かったかな」


3年間同じクラスの日南(ひなみ)ショーマは軽音部に入っていて身なりが派手。とにかく目立つ。

ギターを弾くけどべつにバンド活動を本格的にしてるわけでもプロになりたいわけでもなく、テキトーに楽しんで目立ちたいだけ。



「青髪懐かし!おれらが付き合ってた時の髪型じゃん」


ついでに全方面で気遣いができないからこういうことも平気な顔で言う。


「あんまり大きな声で言うと寧音(ねおん)にやっかみ受けるからやめてくれる?」

「ヒエラルキー頂点・超人気者で超美人なアリスがやっかみなんて受けるわけねーじゃん」


軽いなあ、思考が。付き合ってた頃はもうちょっとマシだったんだけど…まあそれは盲目になっていただけかもしれない。