待ち人、音信なし


河川敷を歩いていくその姿に後から傘を差し出す。それに気付いてこちらを見て一言。

「いい」

単語しか喋れない魔法にでも掛かっているのか。

それで止めるのは負けた気がして、私は聞かなかったふりをして差し続けた。

橋の下に入り、一応雨を凌げる場所へ来た。
手分けをして資料を採取していく。

帰りも傘を差し出すと、ノアさんは何か言いたげにこちらを見たけれど、大人しく入っていた。
よし、勝った。

ビルに帰り、崩れない笑顔のトリーに出迎えられる。

「お疲れ様、お帰りなさい」
「つかれた……」
「ランチ行きましょう?」