13話「偽の微笑み」



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 大手出版会社で副社長をしている一条里枝は、すぐに宮を気に入った。初めて会った時にビジネスの話で意気投合をしたのだ。起業したことがあると話すと、興味を持ってくれたようだ。


 「一条さんは、今どんな仕事をしているんですか?」
 「雅樹さんは、『夏は冬に会いたくなる』ってご存知かしら?」
 「あぁ……確か、今、映画化になるって話題になってますよね。俺は読んだことないですけど」
 「あら、知ってくれてるのね。今、私の会社ではそのプロジェクトで大変なのよ」
 「そうなんですね。そんな大きな仕事をしているなんて素晴らしいですね」


 会う事になって3回目になると、一条は自分の仕事を打ち明けてきた。大分、自分の事を信頼してくれているようだな、と宮は思った。そして、この話題はずっと待っていた事だった。決して自分からはその話を出さないようにしていた。けれど、「仕事が出来る女性に憧れているんです」「大きな仕事をやってみたい」という話をさりげなくしていったのが、効いたようだ。

 それと、雅樹というのは宮の偽名だ。蜥蜴は偽の会社のHPと名刺まで作り、雅樹を偽の経営者にしていたのだ。かなり徹底的に作り込んでいる。
 けれど、一条はそれをすっかり信じているのだ。でなければ、宮に仕事の内容を話すはずもない。


 「大変だけど、やりがいがあるわ」
 「かっこいいですね、一条さんは。憧れちゃいますよ」
 「雅樹は褒め上手なんだから……」
 「あぁ、そういえば俺の友人でモデルをやってる男がいるんですけど、その原作好きだって言ってたな」
 「まぁ、そうなの。嬉しいわー。モデルって有名な人?」
 「椛って、知ってますか。変わった名前の」
 「知ってるわ。雑誌やCMで見かけるけど。けど、あの人ってドラマとか映画には出ないんじゃなかった。自分は役者ではないからって」
 「でも、好きな作品には出てみたいって思ってると思いますけど」
 「そう。もし出てくれるとしたら、いい宣伝にもなるわ……」