告げられた言葉は予想していた返答のどれとも違うもので、とっさにいい切り返し方が思いつかず、言葉に詰まる。
目を泳がせたユリシーズの反応に気づいたのか、目が合ったフィリスの顔が曇った。
困惑した顔は、うっかり素で言ってしまった、という心情がありありと出ていた。かあっと彼女の頬に紅色が走る。
恥ずかしさを紛らわすためか、フィリスは必死に言葉を探すように片手を強く握りしめた。
「で、ですが……王位継承権の返上など、陛下や宰相がすぐにお許しになるとは……」
フィリスがちらりと視線を上に向け、ユリシーズもその視線の先を追った。
すると、螺旋階段の上から臣下を見下ろす国王と目が合う。国王はその場の視線を一身に集め、厳かに言葉を発する。
「到底、認められぬ」
国王の言葉は一言であっても、重みがある。
(本当にフィリスを幸せにしたいのならば、誰もが祝福してくれる結婚でなければならない……。そう考えると、僕では彼女を幸せにはできないということか……)
自分の浅い考えに打ちのめされる。
生まれながらの身分は自分ではどうにもならない。
しかし、打ちひしがれるユリシーズの耳に、こほん、という咳払いが聞こえてくる。その声のほうへ見れば、国王が苦笑していた。
「――と言いたいところだが、まぁ、そなたの気持ちもわからなくもない」
「え?」
「…………私が最初に見初めたのは後ろ盾も何もない男爵の娘だった。彼女は王太子妃になる未来に怯え、最終的に平民の男の手を取った。私が王太子でなかったら、と考えたことは一度や二度ではない」
父親の失恋の話は今まで聞いたことはない。
国王夫妻は政略結婚で結ばれた関係でも、仲睦まじいことで知られ、国民の見本となる夫婦だったからだ。
(父上も同じような思いをしていた……?)
目を泳がせたユリシーズの反応に気づいたのか、目が合ったフィリスの顔が曇った。
困惑した顔は、うっかり素で言ってしまった、という心情がありありと出ていた。かあっと彼女の頬に紅色が走る。
恥ずかしさを紛らわすためか、フィリスは必死に言葉を探すように片手を強く握りしめた。
「で、ですが……王位継承権の返上など、陛下や宰相がすぐにお許しになるとは……」
フィリスがちらりと視線を上に向け、ユリシーズもその視線の先を追った。
すると、螺旋階段の上から臣下を見下ろす国王と目が合う。国王はその場の視線を一身に集め、厳かに言葉を発する。
「到底、認められぬ」
国王の言葉は一言であっても、重みがある。
(本当にフィリスを幸せにしたいのならば、誰もが祝福してくれる結婚でなければならない……。そう考えると、僕では彼女を幸せにはできないということか……)
自分の浅い考えに打ちのめされる。
生まれながらの身分は自分ではどうにもならない。
しかし、打ちひしがれるユリシーズの耳に、こほん、という咳払いが聞こえてくる。その声のほうへ見れば、国王が苦笑していた。
「――と言いたいところだが、まぁ、そなたの気持ちもわからなくもない」
「え?」
「…………私が最初に見初めたのは後ろ盾も何もない男爵の娘だった。彼女は王太子妃になる未来に怯え、最終的に平民の男の手を取った。私が王太子でなかったら、と考えたことは一度や二度ではない」
父親の失恋の話は今まで聞いたことはない。
国王夫妻は政略結婚で結ばれた関係でも、仲睦まじいことで知られ、国民の見本となる夫婦だったからだ。
(父上も同じような思いをしていた……?)



