聖女との婚約はお断りです!僕には心に決めた婚約者がいるので。

 フィリスが息を呑んだのがわかった。
 だが公衆の面前での一世一代の告白は、もう後には退けない。
 目の前の彼女の心をつなぎとめるためならば、恥ずかしさなど捨て置く。周囲の好奇の視線など、構っていられない。
 今を逃せば、フィリスは自分以外の男のものになってしまう。
 そんなのは死んでも嫌だ。
 政略結婚とか、第一王子とか、そんな世間体のことなど、この際どうでもいい。自分は一人の男として、生涯愛する女性に振り向いてもらいたいから。

「君と結婚できないなら、王位継承権も返上する。だから」
「…………」
「どうか、僕との恋を過去にしないでくれ」
「…………わ、わたくしは」
「うん」
「人と話すのが苦手で、引きこもり体質で、婚約者の務めからも逃げ出すような小賢しい娘で……到底、あなたの妃にはふさわしく、ありません」

 今にも消え入りそうな自信なげな声に、ユリシーズは今すぐ彼女を抱きしめたい衝動に駆られた。

「僕は君のものだ。他の誰の物にもならない。僕を好きにできるのは、フィリス。君だけだ」
「殿下……そ、それは」

 言いにくそうに視線を下げ、フィリスは口を濁した。
 しん、と静けさが訪れる。
 皆が固唾をのんで見守る中、ユリシーズはその先が聞きたくて、優しく言葉の続きを促した。

「なんだい? フィリス」

 彼女が逡巡する時間さえも貴く感じられて、否応なしに鼓動が高まる。
 やがてユリシーズの期待する眼差しに根負けしたように、フィリスが口を開く。

「……お気持ちは大変嬉しいのですが、ちょっと……愛が重いです」