貢ぎモノ姫の宮廷生活 ~旅の途中、娼館に売られました~




「……寝てしまわれましたよ」

 フェルナンがひっくり返って寝台に寝ているアローナを見ながら、ジンに言ってきた。

「今ですっ!」
「なにがだっ」

「アローナ様は起きてらっしゃると、ごちゃごちゃとうるさいです!
 だから、今ですっ」

 アローナの意識がないのをいいことに、今すぐ襲えと忠実なんだか、そうじゃないんだかわからない部下が言ってくる。

「……お前、どんな人でなしだ。
 だいたい、初めての夜なのに、目覚めたとき、なにも覚えてないとかどうなんだ」

「なにぬるいこと言ってるんですか。
 乙女ですか、あなたは。

 アローナ様も嫁入りした以上、こう見えて、ちゃんと覚悟を決めてらっしゃいますよ。
 ほら、顔に『早く襲ってください~っ』って書いてあるじゃないですか」

「やかましい。
 変に声を当てるな。帰れ」
とジンは適当なことばかり言ってくるフェルナンを追い出すと、音を立てないよう寝台に腰掛けた。

 ひとり静かにアローナの寝顔を眺める。

 媚もなにも一切なく、くかーっと気持ちよそうにアローナは寝ている。

 なにかホッとする顔なんだよな。

 陰謀とか策略とか、そんなものから、もっとも遠い場所にあるような。

 だから、アローナの側にいるだけで、なにもせずとも結構幸せなんだが……。

 そう思いながらも、ジンはアローナのその白く丸い額にそっと口づけてみた。