『よーしよし、泣くな絃』


『ふぇぇぇ…っ、おぎぁぁぁぁっ』


『暑いの?それとも寒い?…大丈夫、俺はここにいるよ』



どうして泣いているのだろう。
ミルクもあげたし、オムツも大丈夫なはずだ。

それでも腕の中の赤子は泣き止んでくれない。


そんな縁側に座る少年の元へ、会議が終わったらしい父親が向かってくる。



『悪いな絃織。いつもお前に絃を任せっきりで』


『ううん、俺と一緒じゃないと絃は泣いちゃうから。おやっさんもこのあとはまた神戸へ行くんでしょ?』


『あぁ。なにかあったらすぐに連絡してくれ』



大丈夫、絶対に俺が守るよ───。

それが少年の口癖だった。


今日はおんぶ?それとも抱っこがいい?

7歳の少年は、この屋敷に居るときは小さな赤子といつも一緒だった。



『すみません、煙草は向こうで吸ってもらえませんか』



そして最近になって、ようやく解決された。

絃がどうしてずっと泣いていたのか。
お腹がいっぱいだとしても泣いていた理由が。


近くでぷかぷかと空へ上がってゆく煙を見つけると、絃織はすぐにその方向へ向かう。



『ぁあ?…あぁ、坊っちゃん。これはこれはすまなかったね』


『小さいのに毎日世話して偉いねぇ、お兄ちゃん』