「迎えに来るのが遅くなって…すまなかった」


「……」



あのときの言葉、やっぱり覚えてたんだ…。

“どうしてもっと早く迎えに来てくれなかったの”って。



「今まで寂しい思いさせちまって……悪い、」



月がすごく綺麗だった。

その背中から輝く光が照らす先には那岐がいて、光を掴んでしまったみたいだ。

いや、光に包まれているのかな。


「…ううん」と、そんな私は小さく答えることしか出来ない。



「明日から、私は何するの…?」



ここはもう施設じゃない。
男ばかりの場所、危険がいっぱいの場所。

でもこの人がいるならば怖いものなんか無いような気がする。



「茶道、華道、剣道を一通りやらせる」


「………え。」


「甘くねえから覚悟しとけ。…甘いのは今だけだ」



そう言うと那岐はさっきよりも強く私を抱きしめてくる。

隙間なんかないくらいに。



「わっ、えっ、そんなに出来ないよ…!」



確かに夏休み中だし、課題もそこまで多くないけど…。

というよりそれはぜんぶ那岐が教えてくれるの…?

茶道とか華道って女の人が得意なイメージあるのに。


この男は一体、何者なんだろう。



「…大丈夫だ。お前ならできるよ」


「どこにそんな自信っ、てか苦しいっ」


「何せ俺とお前は───…」


「……えっ、寝ちゃった!?ちょっと那岐…!」



これから私に待ち受けていることは、きっと楽しいことばかりじゃないはずだ。

それでも自己紹介のときに「天鬼 絃」と言ったように。


私はここで、この場所で強く生きていく。