「でも確か君と那岐さんは───」


「絃、お前はそろそろ部屋に戻っていい」



その先の言葉は、被せられるように放たれた音にたまたま聞こえなかった。


気づけば外は真っ暗。

いま何時なんだろう?なんてことも今になって初めて気にかけたくらいだ。



「え、でもまだ宴会は…」


「あとは残った奴らが騒いで片付けるだけだ。俺ももう戻る」



お酒を呑んだはずなのに顔に出ない那岐は、私の腕を取って広間から抜けた。

長い廊下を渡って離れた屋敷へと向かってゆく先に、確か私と那岐の自室もあったはず。


しかし辿り着く前に男は足を止めた。



「どうかしたの…?」



腕を引かれたままの私も同じように動きが止まる。



「わっ、…えっ、」



ぐいっと、そのまま引かれた先はスーツ姿の腕の中。

ふわっと香る香水の匂いに混じって微かにお酒の匂い。



「な、那岐…?どうしたの…?なにこれ…」


「…黙ってろ」



ぐっと引き寄せられて。


その胸に顔を埋める形になってしまっても、彼はお構い無しらしい。

ちょっと苦しいけど、でも、なんか落ち着く。



「なぎ…?」



やっぱりこの感覚は初めてじゃない…。


すると彼は震える声でつぶやいた。