それでもあのときはそれどころじゃなく、とくに後回しにしていたが。
「そ、天鬼 美鶴が持ってたらしいビデオカメラ。俺それを絃ちゃんに観せたんだよねぇ」
ほら、母親のこと知りたいかなぁと思ってさ───と。
天道は俺を試すように、じっと見つめてくる。
母さんが持っていたビデオカメラ…。
俺は記憶を甦らせて、なにか接点があったかと思い返す。
「…お前、」
「ん?なーにそんな怖い顔しちゃって」
「やっぱりてめえが泣かせたんじゃねえか」
そいつの胸ぐらを掴んだ。
だとしても怯まない男は「なんのこと?」なんて、いつも通りとぼけていて。
ビデオカメラ、確かそれは母さんが昔手にしていたものだ。
あまり使っていなかったが1度だけ、「なにか喋って」と言われたことがある。
それは絃が生まれる前。
だから俺は…そこに“兄”としてメッセージを送った。
「たとえ天才ハッカーだろうが余計なことすんなよ」
「余計なことって?」
「…俺が自分の口からあいつに伝えなきゃならねえことだってあるんだ」
「だってあんた、怖じ気づいて言えないじゃん」
どこまで知ってんだこいつは。
なにを隠してるんだよ、天道 陽太。



