はあっと熱い息が耳にかかる。
ピクッと肩が揺れて、そこに顔を埋めた黒い髪が頬に触れた。
静かな車内。
誰にも邪魔されない場所。
「ん…っ、」
甘い甘い唇が重なって、包み込むように重なって。
角度を変えて啄むように合わさって。
ちゅっ、ちゅっと音がいつも以上に響いた。
「那岐、いちごオレの味がする…」
「…だな」
鼻血でてない…?
顔真っ赤じゃない…?
心臓飛び出ちゃってない…?
そんな考えすら溶かす優しくて甘いキス。
「那岐、いっぱい女の子に見られてた…」
「そうでもねえだろ」
「ううんっ、店員さんも見てたよ…!」
普段こういうところに来るような人じゃないからこそ、店員さんも「珍しい」なんて目付きで。
それにアパレルショップには女性店員さんが多いから。
お兄さんに似合いますよ、なんて声をかけられたりして。
「それにやっぱり私は妹にしか見られなかったもん…」
かといって“彼女”でもなく。
曖昧な今の関係。
冒険の書を更新していく毎日。
でもこうして一緒にいられるなら、なんだっていい。
でも私以外と来ちゃだめだよ、なんて独占欲。
「…妹にこんなことするわけねえだろ」
「んんっ!まって那岐…っ」
絶対に切れないものが欲しいと思った。
私たちにしかない絃─いと─が欲しい、なんて。
そう言ったら那岐はどんな顔をするのかな。
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