「ね、ねぇ那岐」
腕の中、ふと名前を読んでみた。
すると「どうした?」なんて優しい返事が返ってくる。
顔を覗き込むように見つめてくるから逸らしてしまえば、もっと抱きしめられてしまった。
「わ、私たちは…どこに向かってるの…?」
そして私は何を聞いているの。
完全に間違えた。
聞きたかった質問がアバウトすぎる。
ちがう、本当は「私たちの関係って何?」って聞きたかったのだ。
なに、どこに向かってるのって。
私がどこに向かってるの。
「…冒険の書の、…更新」
うん、ちょっとなに言ってるか分からない。
でも分からないこともないような…。
私たちが過去に関わった期間は短くて長くて、短くて。
だけど必ずこうして話すと過去の私たちはすぐ近くにいるから。
それを思い出にして、それに囚われないように新しい今ある形を更新してく。
たぶん那岐が言ってることはこれだ。
「那岐、…だいすき。私は…那岐が、すき。那岐じゃなきゃ駄目なんだよ」
そして彼が心の奥に隠している気持ちはまだあるから、私は先回りして言う。
那岐の中には那岐にしか分からない孤独や辛さ、そして不安がきっとまだうにょうにょしてて。
一緒に背負えるよ、私。
那岐が一緒なら、なんだって怖くないって前にも言ったから。
「…ずっと一緒にいような、絃」
その顔は、私を腕に抱きながら見下ろす少年の表情とまったく同じだった。
静かに涙を流す少年と───。