「…なぎ…?」


「…ん、」


「な、…ぎ」


「…なんだ」



とろけるようなキスの中、何度も私はその名前を呼んで。

まるで言葉を覚えたばかりの幼い子供みたいに。


その都度、甘い甘い返事が返ってくる。



「那岐の匂いすき…、髪の毛も…目も、手も、優しいとこも、…ぜんぶ、すき」



花のような匂い。
サラサラした綺麗な黒髪。

でも毛先はよく見るとピョンって跳ねてるんだよ。


それで優しい目。
綺麗な、目。

私はいつも、その目を下から見上げてた。


お月さまみたいに綺麗だったから掴みたくて。



「…ぜんぶじゃねえだろ、まだ」


「え…?」


「まだ俺はお前にぜんぶ見せてない。…俺も、お前のぜんぶ見てねえし」



うん……?

……うん………うん…?


えーっと、あのぅ……。



「ボタンっ、那岐っ、ボタン外してるっ」


「さすがに全部ってのはこういうことも言うからな」



プチプチとひとつずつ外されてゆく、ワンピースのボタン。



「私見られてるからっ!お風呂とか一緒に入ってたんでしょ…っ」


「それならお前も俺の見てるか。よし、まったく問題ない」


「まったく大アリだよっ!那岐のえっちっ!変態…っ!」



私2歳だよ?
ぜんぜん覚えてないし、いろいろ複雑だしっ!

今と昔じゃいろいろ違うのに…!



「…それは煽りにしかならねえって覚えとけ」


「んん…っ!」



バニラアイスだ。


那岐との初めてのキスは、例えるならばそんな味がした。