「那岐、もうこういうのしちゃだめだよ」



こういうの、だめだよ。


私たちだから許されたとしても、私たちの関係を知らない人から見たら最低なことだもん。

私だってもし桜子ちゃんの立場だったら、こんなのぜったい嫌だ。


でも、私たちだから成り立つ今の関係に甘えてるのも私。


“特別”を利用してるのも私。

それでもいいから触れて欲しいって思ってるのも私。



「私、もう赤ちゃんじゃないよ。子供じゃない……那岐から見たら子供かもしれないけど、」


「そんなこと知ってるよ。…とっくに知ってんだよ」



思わず私から身体を離した。

それでも掴んでくる腕。


桜子ちゃんが来ちゃう、と視線を送ったとしてもこういうときに限って察してくれない。



「あの頃の俺たちはもうどこにもいない」



それは私の閉じかけた扉を抉じ開けてくるみたいに。


その眼差しはまた違うもの。

揺れそうになる私の瞳に余裕すら与えてくれないものだ。



「だからいい加減俺を見ろ、…いまの俺を」


「…那───」


「絃織さんっ」



パッと腕から逃れたのは再び私だった。

名残惜しそうに腕は下ろされて、那岐はいつも通りの声で振り返った。



「あの、先ほど転んでしまって…。手当てをお願いできませんか…?」



自分でしろ、なんて内なる絃が出ちゃいそうになった。