「…泣かないんだな」


「…うん。だって、」


「天鬼組の顔が立たないからか?」



へへ、当てられちゃった。

けど、ちょっと違う。

本当はまだいろいろ信じられなくて夢みたいなだけ。


だって私は普通の高校生してた。

施設で育って、好きな子に振られて、勉強して友達と遊んで、そんなごく普通に生きてたのに。



「那岐に出会ってから…いろんなこと知ったね」



そっと肩に手が回されていることに気づいたのは、今になってようやく。

軽く引き寄せられてしまえば簡単に体重を預けてしまう。



「私は、那岐がどんな人でも…どんなものを見てきたとしても……だいすき」



その意味が伝わらなかったとしても、伝わってはいけなかったとしても。

あのとき、キスしてたのを見たとき。
すっごく悲しかったけど納得もしちゃって。


だって那岐の悲しみや孤独をどうやって癒すことができるのかも、私には分からないから。

でも桜子ちゃんなら、彼の本当の光になれるんじゃないかなって思った。


私が光だとしたら、あんなにも那岐を泣かせてしまってる光は嘘だと指を差して自分で自分に言うよ。



「絃織さんどこに行っちゃったんだろう…。すみません、絃織さんを見てませんか?」


「んあ?えっと那岐さんならさっき見かけたんすけど…」



彼を呼んでる声がする。

私たちがいる部屋に近づいてきてる…。