抱きしめると必ずミルクの匂いがした昔。

それが赤子の匂いなんだと、それを感じる度に愛しさが込み上げてきたものだった。



「あははっ、なんやかんや言ってそれが一番だよね!」



けれど今はそんなものしない。

もうこいつは赤ちゃんではないんだと、俺に抱かれおぶられていた幼子ではないんだと。



「生まれてきてくれてありがとう、那岐」



その親子は、俺にこういう言葉を平気で与えてくれる。

大罪人の息子だとしても「ありがとう」だなんて。


生きていてくれてありがとう、
生まれてきてくれてありがとう、


そんな言葉を贈ってくれるのだ。



「那岐の匂いってなんか…懐かしい感じがする、」


「そりゃそうだろうな」


「え?やっぱりそうだよね?私これ知ってるもん!誰かが付けてたのかなぁ」


「…さぁな」



もし、すべてを知ったとき。

この先に色んなことを知らされたとき。


こいつはどんな目で俺を見るだろう。

俺はこいつに、どんな顔をさせるだろう。



「そろそろ戻らないとっ」


「…まだ、もう少し」


「わっ…那岐、くすぐったい」



そんな不安を隠すように、俺はその首筋に顔を埋めた。