光を掴んだその先に。

那岐side




「ありがとな、絃織」



賑やかな大広間から席を外し、夜風に当たっていれば静かに声をかけてきた男。

こうして話すのは久しぶりだった。


なんのことですか?と眼差しを送れば「絃のことだ」と、返ってくる。



「茶道やら華道やら、いろいろ教えてくれてるらしいじゃないか」


「いえ、頑張ってるのは絃のほうです。それはあいつに言ってやってください」


「いまは普通に話してくれていい」



敬語はやめろ、の合図だ。

それは上司と部下ではなく、親と子に戻るという意味。



「美鶴もきっとお前らがまた会えて喜んでるよ」


「…母さんは俺を恨んでるはずだよ」


「ったく、まだお前はそんなこと言ってやがるのか」



秋も終わりが近づいている。

肌を冷やす風がふわっと前髪を掻き上げると、俺の額にある3センチほどの長さの傷が男の瞳に映った。


それが何よりの証。



「絃織、お前まで自分を追い詰めてくれるな」



そう言って義父は静かに去って行った。


彼の周りにいる存在はいつだって自分で自分を追い詰めてしまう者ばかりだった。

そこにはきっと今、俺も仲間入りをしようとしているらしい。