はじめてのカレカノ


私たちは無言で歩いた。

駅前の大通りから離れ、行き交う人も見かけなくなる。

暫く歩いたところで翔が止まった。閑静な住宅街に建つ家の前。

門を開けながら

「入って」

翔が家に入るように促してきた。門には『高槻』の表札。

そこが翔の家であることは間違いない。

外灯も付いておらず、真っ暗な家。

その中に人の気配は無い。翔のご両親は長野に居るのだから当然だ。

翔は玄関の鍵を開け、私を家の中に押し込むように入れた。

玄関の扉が閉まるのと同時に私の手首から翔の手が初めて離れた。

離されて自由になった手を見ると、掴まれていた部分が真っ赤になっていて、翔がどれだけの力で私を掴んでいたのかが分かる。