長野にいたはずの翔がなぜここに居るのか分からない。
いつも翔は私のことを助けてくれるのに。
でも、この人は私の彼ではないんだ。
岡崎先輩の彼なんだ。
こうして助けてくれても、この優しさは私のものではない。
「今まで何度も助けていただいて、ありがとうございました、高槻先輩」
私は翔に頭を下げると、ホームから立ち去るつもりで翔に背を向けた。
今、翔がどんな顔をしているのか分からない。分かりたくもない。
私は一度も振り返ることなくホームから階段を下りる。
これで終わりになるのかな。
こんなにあっけなくお別れなのかな。
翔、大好きだったよ。
改札を出ようとした時、後ろから強い力で抱きしめられた。
大好きな人の腕。
大好きな人の匂い。
どうして引き留めるの。
どうして私の心を混乱させるの。
どうして、ねえ、翔。私はどうしたらいいの。



