婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 アルが怪訝そうな顔をした。いや、ひげと前髪のダブルもじゃで表情はよく見えないけど、声がそういう声だったよ。
「ああそうか、アルには言ってなかったわね。私、婚約者を見つけにこの街に来たのよ?」
「知ってる」
 知ってるの?
 ええ?
 何?
 もしかして、護衛を頼むときに私がこの街に来る理由とかも説明しちゃってたりする?
 婚約破棄を3回もされた公爵令嬢とかも言ってたりするの?
 お父様が、身分を隠して商家の娘としておぜん立てしてくれてるんだよね?
 ……。カマをかけてみる。
「私、実は公爵令嬢なの、知ってた?」
 私の言葉に、アルはハッと息を飲んだ。
 ん?驚いたぞ?知らなかったのかな?
「ま、またまた、……何の冗談ですか……は、はは……」
 なんだか挙動不審?
 まぁそうか。
 私だって、目の前にいる山賊風の護衛が「実は王の落胤で実は王子です」とか言われても、どうしていいのか分からないもんなぁ。
「そう、冗談よ。でも、婚約者を見つけに来たというのは本当よ?」
「知ってる」
 いや、だから、何でそれは知ってるの!
 ま……、まさか……。
「護衛って、悪人から私を守るだけじゃなくて、近寄る男性も排除するように言われてるわけじゃないわよね?」
 思わず、アルのシャツをつかみ詰め寄る。
 お父様、市井で婚約者を探すの反対気味だったし……。婚約者用意して2年過ぎるのを待ってるつもりじゃないでしょうね?
「もちろん、全力で虫は排除します」
 ええ!?
 さ、殺気?!
 アルが、目にもとまらぬ速さで、右手をシャッと伸ばして引き戻した。
 開かれたアルの手には、小さな虫の死骸が一つ。
「あはは~、びっくりした。虫ね。虫。アル、全力じゃなくてもいいよ。害にならない虫なら平気だからね?」
 アルのシャツをつかんでいた手を離して、ポンポンと胸を叩いた。
 うお、胸板厚いな。
 さっき虫を捕らえるスピードもすごかった。
「でも、アルが頼りになる護衛だっていうのはよくわかったよ。危険が迫ったら、よろしくね?」
「害にならない虫などこの世にはいません」
 ギラリと、また殺気をアルから感じる。
 えええっ!
 もしかして、アルは虫がすごく嫌いなのかな?
 うん。よし、お店には虫よけの香を絶やさないようにしよう……。
「ま、そういう訳だから、愛の代筆屋を始めるようと思うの」