婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 流石、山賊……じゃなくて、護衛任務に就くだけのことはある。
「改めて自己紹介するわね。私はリリィー」
「初めましてリリィー様。護衛をさせていただきます、アルです」
 アルが頭を下げた。背中がピンと伸びた綺麗なお辞儀だ。山賊がするような粗野さはどこにもない。
「あー、様はいらないわアル。リリィーって呼んで。んー、店長でもいいわよ?私、ここでお店をすることにしたから」
「え?お店?お店は、お隣では……」
「細かいことは気にしない。とにかく、ここでお店をするから、えっと、アルは護衛兼従業員でよろしくね」
 アルは、ぶつぶつと従業員……ってことは、えっととか何かつぶやいてる。
「何のお店なんですか?」
「いい質問ね、アル!」
 実は、ずぅーーーーっと前から考えていたことがあるのだ。
 公爵家が取り潰しになって、庶民になったら……どんな仕事ができるんだろうって……。小説を読みながら考えたんだよねぇ。
「私、代筆屋をしようと思うの!」
「代筆、屋?」
「そうよ!王都で文字が書ける人は10パーセントにも満たないと習ったわ。貴族や大商人が多い王都ですら10パーセント以下。王都を離れれば、ほとんどの人が文字の読み書きができないのよね?だから、私が代わりに書いてあげるの!」
 どやっ!
 素晴らしい仕事じゃないの?
 公爵令嬢として文字の読み書きはしっかり叩き込まれたし。文字はきれいですねって褒められたことがあるんだよ!
 刺繍とか、ダンスとか、楽器とかで褒められたことはないけどね……。
 あ、ちょっと凹んだ。ぐすっ。
「確かに、文字の読み書きができない人が契約書など文字を書くことが必要になる場面はありますが……。契約書など信用第一の仕事ですので、ポッと出の娘が営む代筆屋に頼む人がいるかどうか……」
 ふっ。
「私が代筆するのは、契約書なんてそんな夢のないものじゃないのよ!私が代筆するのはね、愛よ!」
 アルがぽかぁーんと口を開けた。
「愛?」
「そう!私はラブレターを代筆するわ!愛を代筆するなんて、愛の狩人の私にふさわしい仕事だと思わない?」
 自分の言葉に酔いしれて、思わずクルクルと回って両手で自分の体を抱きしめた。
 それから、同意を求めて、下からアルの顔をのぞき込む。
「愛の狩人?」