婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 少し埃っぽいけど、建物の中は古臭さを感じさせなかった。割と最近まで使われていた感じがある。
 背の高い丸テーブルが3つ並んでいる。机ではなく、商品を置くために使われていたのだろうか?椅子はない。
 その奥に、カウンターがあり、カウンターの奥に事務用の机と椅子が置かれている。
 そのさらに奥は壁になっていて扉がある。
 生活スペースなのかな?それとも飲食店もできるキッチンかな?
 奥に進み、扉を開ける。
 扉を開けると、小さなキッチンがあり、その奥に2階へと続く階段が見えた。
「誰だ!」
 うわっ。びっくりした。
 2階から大きな声で怒鳴られた。
 そうだ、ここは、護衛の宿舎として利用すると言っていた。
 私のわがままで1階を店にすることになったとはいえ、先に入居してる人に断りもなく入ったのはちょっと失礼だったかな……。
「リリィーです。護衛の方ですか?」
 2階に向かって声を掛ける。
「リッ、リリィーッ、様!」
 驚きの声。次の瞬間、ガダゴドドスンという、すさまじい音と共に、2階に続く階段から人が転げ落ちた来た。
 青い半そでのシャツに、紺のズボン。
「ま、まさか、こちらにいらっしゃるとは思いもせずに……」
 袖から出ている腕には鍛え上げられた筋肉が見える。ムキムキというよりは細マッチョな感じだ。
 身長は私よりも頭一つ分ほど高い。180は超えているように見える。
 立ち上がって振り返った男の顔を見て、息を飲む。
 フォキシーゴールド……狐色の髭で顔半分が覆われている。伸びているのは髭ばかりではない。前髪は目元を覆い、肩まで伸びた髪は結びもせずに自由に……もじゃもじゃなままだ。
「山賊……」
 思わず漏れた単語に口を覆う。



「山賊?あ、髭……?違います、僕はリリィー……様の護衛を仰せつかりました、アルと申します」
「護衛……の、アル……」
 そうだよよね。うん。山賊がいるわけないよ。
 あはは。私ったら、小説と現実をごっちゃにしちゃって。恥ずかしい……。
「ごめんなさいね。突然来てしまって……。あの、大丈夫ですか?」
「大丈夫。階段から転げ落ちたくらいじゃ、死なない……」
 いやいやいや、死んでないのは分かる。
 どこか痛めてないか尋ねたつもりなんだけど……。大丈夫なのかな?あんなに勢いよく階段を転げ落ちてきたのに……。