婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

「肉の絵の下に肉という文字……何かに似ていると思わない?」
 分かりやすい絵の下に、それを表す単語。
「……ああ、言葉を覚えるために一番初めに手にする絵本……」
 アルの言葉に満足する。
「そうよ!絵本を子供たちに配ることはできないけど、街を絵本にすることはできると思わない?看板の絵に文字を付ける……。元々絵はあるんだから、後は文字を足すだけ!」
 スプーンですくった肉を口に入れて、もぐもぐ。
「なるほど、それはいい考えかもしれません。文字を目にする機会を増やして、識字率を上げる……看板に文字を足すくらいであれば、費用もさほど掛かりませんし、看板の文字の読み方は店の者に覚えてもらえばいい。読み方を知りたいと思った者は店の人間に聞けばいいんだから……。先生を用意する必要もないですね」
「そっか!店の人が先生……。そうだよね、自分の店のことなら忘れないよね!じゃあさ、パンの絵の下にパンの文字以外にも、お店の名前も文字にして看板を作っちゃう?文字だけだから、読めないと意味がないと思ったけど、店の名前なら店の人が教えてくれるはずだもん。少し文字を覚え始めた子供たちならどんどん吸収していって文字を覚える役に立つかも!」
 アルがにこっと笑った。
「今の段階で、国を動かすことはできませんが、街のことなら、自分たちの手でできるだけのことはしてみましょう」
「うんっ、そうだね!さっそくライカさんに」
 と、席を立とうとしたら、右手をつかまれた。
「リリィー、食事が終わってからにしなさい。行儀悪いよ?」
 ……まるで、子供を叱るようにアルに叱られました。だけど、全然不快な感じはしないので、素直に謝る。
「ごめんなさい……」
 こんな風に叱られるの、ちょっと懐かしい。
 いや、まて、メイシーに割としょっちゅう注意されてたよ?懐かしがるほどのことじゃないよね?
 ……って、しょっちゅう注意されるとか、私、本当に来年成人で大丈夫なんだろうか?
 なんか、ちょっと落ち込んだ。
「ふふ。元気よく動き回るところは、リリィーのいいところだよ」
 アルが肩を落とした私の髪をそっとなでて慰めてくれた。ああ、うう……。
 もしかして、アルってば親戚のリリィーちゃん(たぶん幼女)を見るような目で私の面倒を見てくれるつもりなんじゃ……。