婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 一瞬ギクッとして、アルの顔を見る。
「兄とも話をしてたんだけど、メニューだめじゃなくて看板も絵だけじゃなくて文字も入れようかって。一番目に付くのは看板だものね」
 目に付くのは看板?
「ライカー、運んでくれ~」
「はーい、リリィーちゃん注文はいつものようにランチと果実水でいい?」
 ライカさんの言葉に頷き、席に着く。
「アル、ライカさんがお忍びの貴族がお客で来たっていうんだけど、アルとかエディのことじゃないわよね?」
 声を潜めてアルに話しかける。
「え?」
 アルがギクッとした表情を見せた。
「ど、誰が、僕やエディを貴族だなんて……」
「見てれば分かるけど?違うの?」
 と、言ってから気が付いた。
 ライカさんとか街の皆が見ても分からないんだよね?
 私は、私自身が貴族社会に居てよく見てたから、立ち振る舞いなどちょっとした動きでそうなのかなって気が付いたんだけど……。
 逆に言えば、貴族だと見抜く私は何者だと……公爵令嬢っていうのは、雇われたときに聞いてないんだよね?
「あー、いやー、間違ってないような、間違っているような……」
 と、アルがぼそぼそとつぶやく。
「分かってるわ。内緒なのよね。市井で生活してる間は、護衛と番頭、それ以上でも以下でもないのよね?」
 ってそもそも貴族を雇っている「代筆屋のリリィーは何者だ?」疑惑が立っても困る。この話題はさくっとスルーね。
「ねぇ、アル、街の看板だけど、どう思う?」
「どう、とは?」
「例えば、ドナさんのパン屋さんはパンの絵、肉やさんは肉やソーセージの絵の看板よね?代筆屋も絵を付けて文字を読めない人にも読めるようにしたわよね?」
 ランチを食べながら、思いついたことを頭で整理しながら言葉にしていく。
「文字を読めない人に絵で伝えるために絵の看板……絵と文字の看板にしたらどうかな?」
「文字を読める人のためにですか?でも、文字がなくても絵で十分伝わると思いますが……」
 そうだ。アルの言う通り。
「うん、不便はないんだ。だからその状態でずっと来たんだと思うの。むしろ、絵の下に文字を入れようと思えば、お金もかかるし、わざわざしようとは思わないよね……。だけど……」
 手に取ったパンをアルに見せる。
「パンの絵の下に、パンという文字」
 次に、シチューに入っていた肉をスプーンですくって見せる。