婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 って、空色の目が笑っていた。2つ年上の婚約者。優しい人だったような気がする……。
「リリは、何度も絵本を読んであげているうちに、いつの間にか文字を覚えちゃったような気がするよ」
 へぇ、そっか。子供は教えてあげなくても、勝手に覚えちゃうのかぁ。
 でも、絵本はねぇ、流石の私でも高級品だって知ってるよ。
 紙の値段は1枚1セインから売ってるけれど……本となると値段が跳ね上がる。
 中身が手書きだからだ。
 私が普段読む小説は、写本。
 文字を覚えた学生の定番のお小遣い稼ぎが写本。貴族の中にも、下級貴族で生活が苦しい人もいて、内職として写本をしている人もいるらしい。
 大量には作れないので、本は高価だ。
 そして、絵本はその比じゃない値段が付く。
 ページ数は少ないし、文字も少ないが、絵本なので「絵」が必要だ。文字を書ける人よりも、絵を描ける人の方が圧倒的に少ない。
 それゆえ、絵本はとても高価になってしまう。うまい絵師が描いた、色付きの絵本など……宝石いくつ分もの値段がする。
 だから、絵本を市井に広めて文字を覚えてもらうというのはとてもできることではない……。
 何か、他に方法はないだろうか……。
「いらっしゃいませ」
 思考が、お客さんによって中断される。
 メニューの注文だという中年男性だ。追加料金で紙を変えられますというと、興味をもって紙を選び出した。
「紙も変えてもらおうかな。これは、5セインで、こっちは10セインか。うん、それくらいなら問題ないな」
 あれ?
「文字が読めるんですか?」
 値札を見て、つぶやくお客さんに質問した。
「え?文字は読めないさ」
「でも、今、数字を……」
「あははっ。数字なら誰だって読めるさ。じゃないと、買い物一つまともにできないからな!」
 数字は誰でも読める?
「あの、皆さんはどのように数字を勉強するんですか?」
 私の質問に、お客さんがふきだした。
「勉強?そんなもんしないよ。街中にある値札見て覚えるもんだよ。小さいころにお金渡されて、持っているお金と相談しながら買い物してれば自然に覚えるさ」
「自然に覚える……」
 絵本を読んでもらっているうちに、文字を覚えたリリちゃん。名前の文字はすぐに覚えちゃって……。
 市井の人も数字は自然に覚える……。
 ああ、何かヒントがありそうなのに……。
「いらっしゃいませ」