婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 話を聞き終わったメイシーは、本棚から数冊の本を持ってきた。
「ねぇ、リリィーこの小説の話、覚えてる?」
 うんと頷く。
「すんごく腹の立つ侯爵が出て来たじゃない?『俺は侯爵だぞ、偉いんだ、何でもできるんだ、自由にできないことなど何もない!』って」
 メイシーは別の小説の表紙を見せる。
「こっちの小説には、悪役令嬢が出て来たわよね。リリィーと同じ公爵家の一人娘。父親が宰相っていうところまで同じだったね」
「覚えてるわ!しかも名前がリディとか微妙に似てるの!」
「うん。リディはいつも公爵家の娘というのを鼻にかけて『私に逆らう気?』が口癖。金と権力を最大限に使いやりたい放題」
「もう本当腹が立ったよ!最後に断罪されたときにはどれほどスカッとしたことか!」
 いつの間にか、私の涙は止まっていた。
「私、自分を無力だっていうリリィーが好きだよ」
「メイシー……」
 メイシーに言われて心臓の奥がずんっとつかれた。
 公爵家に生まれた私。
 今まで、心のどこかでこれらの小説の悪役と一緒で、ほとんどのことが何とかできると思っていたのかもしれない。
 初めてなのだ、こんなに自分を無力に感じたのは……。
 私……。どこかでおごっていた?
「だけどね、リリィーは他の人よりも少しだけ力があるよ。私もそう。文字の読み書きはできるし、ある程度のお金もあって、それから自由になる時間もある。考えたことを聞いてくれる、国の要人へのツテまである」
 うん、確かにそうだ。
「それから、相談できる友達もいる」
 メイシーがおどけた口調で自分を指さしてウィンク。
「ありがとう、メイシー!」
 心がふわっと軽くなった。
 すると、不思議なことに本棚に目が行き、今まで読んだ小説を思い出した。
 私のように無力さを悩んでいた主人公もいた。
 彼や彼女たちはどう立ち直ったのか……。
 無力でもいい、いや、無力だという自覚から、何ができるか考えて、できることを精一杯すればいい。
 大きな目標を立てて、それが自分に手が届かない、無理だと何もしないよりも、小さなことでも何か行動をした方がいいって……。
 そうして、まぁ、小説だから結果的にすごくうまくいって大きなこと成し遂げちゃうんだけど……。それは結果であって、初めからそうなるようにと動いたわけじゃない。
 一人の力は大したことがない。