婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 文字の読み書きができないからって、だますなんて……。
 識字率が上がれば……
 全員が読み書きできなくたって、知り合いの誰かひとりでも、信用できる誰かひとりでも読み書きができれば……。
 その人に立ち会ってもらえば被害は減るよね……。
 貴族や上流階級じゃない。市井での識字率が10パーセントあれば……。
 くやしい。
 いい人が……何の罪もない人が、悪い人に騙され、苦しめられるなんて……。
「私……識字率をあげたい……」
 口から思わず漏れた言葉。
 洗礼のときに子供の名前を書くって言いだしたのは、識字率をあげるためじゃなかった。
 子供を喜ばせたいって思ったからだ。単なる思い付きに、意味を持たせるために識字率をあげるためって理由をくっつけた。
 ……。今は、私……。
 識字率を上げたい。
 理不尽に苦しめられる人達がいない世の中にしたい。
 私に何ができるの?
 ダダをこねてお父様に頼むの?何を?
 ぽろぽろと涙がこぼれた。
「アルゥ……私、私、識字率を上げたいの……ジョンさんやドナさんみたいな目に遭う人がいないようにしたい……」
 私に有るのは気持ちだけだ。
 何もできない、何も……。
 自分の無力さに涙が落ちる。
「国の責任です……。リリィーが泣くことはないんです……」
 アルの手が、私の髪をなでた。
「何も、国も現状をよしとはしていない……ですが、国が優先すべきことは、まずは国民が飢えないこと。他国からの侵略を防ぐこと。……学校を作り識字率を上げるところまでなかなか予算を回せないのが現状です……」
 うん。お父様が頑張ってるの知ってる。

 店に戻って、ゴーシュたちにめちゃめちゃにされた店内を戻す。
 私もアルも口数少なく黙々と作業を続ける。
 私の心の中はぐちゃぐちゃなままだ。
 何かできないのか……何もできない。何かしてあげたい……何もしてあげられない。

「リリィー、ひどい顔!」
 部屋に戻ると、メイシーが私の顔を見て悲鳴を上げた。
「何かトラブルがあったんだって?大丈夫?今日はゆっくり休んで……」
 気遣うように、私のお世話をするメイシー。
「……ねぇ、メイシー。私って、無力ね」
「え?」
 仲良しのメイシーの顔見たら、また涙が出てきた。
 ぽつりぽつりと、私が思っていることをメイシーに話す。