婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 思わず、メイシーと声がハモる。な、なんで侍女頭のロッテンさんが……。
「リリィー様、メイシーも、大きな声を出して、はしたのうございます。淑女としてのたしなみはお忘れなく!」
 あううっ。お父様も逆らえない鬼の侍女頭をお目付け役につけるとは……。
「1階が店舗で、2階が住居となっております。両隣の建物は、護衛や従業員の宿舎となっております」
 ロッテンさんの後ろには、煌びやかな宝飾品や、高価そうな陶磁器、流行の最先端のレースをふんだんに使ったドレス、なじみ深い品々が並ぶ店があった。
 近隣の店の、5倍はありそうな大きな店だ。
 看板には「ロゼッタマノワール」とある。薔薇の館か。
「旦那様が、普段使っていた品々を扱う店であれば切り盛りできるのではないかとご用意してくださいました」
 あー、うん。そうか。
 お父さまもいろいろ考えてくださっているんだなぁ。
 だ、が、し、か、し!
 こんな女性が好みそうな品ぞろえの店のどこに、素敵な男性との出会いがあるっていうのだ!
 さらに言えば、こんな高級品を買いに来る人間なんて、貴族階級がほとんどじゃないの!
 絶対に、山賊の頭領は来ない!
 王子は来るかもしれないけど、王子が来て喜ぶのは私じゃなくてメイシーじゃないのっ!
 分かってない!
 お父様は分かってない!

「私、こっちで店やるわ!」
 ロゼッタマノワールの右隣りの建物を見る。
「お嬢様、そちらは、店ではなく護衛の宿舎でございます」
「元々は何かの店だったのよね?2階を宿舎に使ってもらって、1階でお店をすればいいわ」
 ここは領都ガッシュのメインストリートだ。
 大通りに面した建物は、どれも1階がお店で2階が住居もしくは宿屋という作りになっている。護衛や従業員の宿舎として用いるために用意したとはいえ、元は店に違いないだろう。私が滞在する2年のためにわざわざ建てたわけじゃないのは外観の古さから分かる。
 ロッテンさんは、表情一つ変えずに黙っている。返事がないのはNOの意思表示だよねぇ。
 ぐぬぬ。どう説得したものか……。
「考えてみて、大店のお嬢様って、危険でしょう?誘拐される危険も高まるでしょうし」
「そのために護衛がいます」
 ぐぐっ。