婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 ゴーシュがいひひひっとバカにしたように笑った。
「そりゃそうでしょうねぇ。サインをした覚えがあるわけない。パン屋が”文字”を書けるわけないですもんねぇ。ジョンさん、あなたの同意の元、このサインは私が代筆してあげたでしょう?」
「嘘だ!」
 ゴーシュはふんっと馬鹿にしたようにジョンさんを見る。
「借りたのに借りてないという人間がいるから、こうして借用書という公文書が存在しているんですよ?その借用書を知らないと言われましてもねぇ……」
 いたぶるように、汚い瞳をジョンさんに向ける。まるで水に浮いた廃液がチラチラ揺れるように小さく光を映した。気持ち悪い。吐きそうだ。
「出るところへ出でもいいんですよ?」
 ドナさんの顔は真っ青だ。
 ジョンさんもそう……。
 私には、ゴーシュが嘘をついていてジョンさんが正しいことを言っているように思える。だけど、何の証拠もない。
 もし、出るところへ出たとしても、借用書が有るということが有利になるのだろう……。
 アルも、殺気を放ったまま動くことはない。やはり、ジョンさんを助けたいとは思うがその手段を見つけられないんだ……。
 ジョンさんの無実を晴らすには……。
 あ!
 そうだ!
 もしかして、うまくいくかもしれない。
「ジョンさん!」
 紙と携帯用のペンを取り出してジョンさんに渡す。
「さぁ、名前を書いて!」
 言われるままに、ジョンは震える手で文字を書く。
 ジ、ヨ、ン。
 決してうまくはない文字だ。だけど、十分。
 私は、先ほど手下がしていたように、借用書のジョンさんの名前の部分を指でトントンと指示した。
「この文字は本当に、ジョンさんに頼まれて代筆したのかしら?」
 ジョンさんが書いた文字をゴーシュに見せる。
「自分で名前が書けるのに、代筆を頼むなんてこと、あるのかしら?」
 ゴーシュは、ぐっと言葉に詰まった。
 そして、じりじりと後ずさりしている。先ほどまでの人を馬鹿にした表情はない。
「ど、どうやらジョン違いだったようだ……失礼する!」
 そう言って、背中を向けた。
「待て、お前には、出るところへ出てもらう必要がある」
 アルが素早くゴーシュたちの行く手を阻むように立ちふさがり剣を構えた。
「くっそ、やってしまえっ!」
 ゴーシュの号令で、手下の3人が武器を構え、アルに襲い掛かった。
「アル!」