婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 ゴーシュは、カウンターに置いてあった料金表を手に取り破り捨てた。
「勝手なことをされては困るんですよ。今まで代筆は銀貨以下では仕事を請け負ってこなかった。それを、大銅貨1枚にもならない値段で……」
 ゴーシュは首を横に小さく振りった。
 そうか、アルが代筆は主に契約書を書くときに必要とされていて、金貨1枚が相場だと言っていた。ゴーシュが言うところの代筆というのは、契約書などのことを言っているんだよね?
「あの、代筆屋では契約書は代筆しません。ですから、今まで代筆をしてきた方の仕事を奪うつもりはないんです。私は、」
「ごちゃごちゃうるせーな!代筆屋をやめろとゴーシュ様は仰ってるんだ!」
 ドンッ、バサァーーッ。
 手下の一人が、紙を並べてあったテーブルを蹴り倒した。
「そうだ、廃業だ、廃業、やめないっていうなら、やめたくなるようにしてやるよっ!」
 もう一人が、テーブルクロスを乱暴にひっつかみ、上に載っせてあった小物を床に散らした。そして、壁を飾っていた見本の手紙を入れた額縁や増加などを次々と引きちぎっていく。
「や、やめて!」
 せっかくアルと一緒に準備した店内が荒らされていく。
「代筆屋を辞めると言いなさい」
「いやよ!辞めないわ!」
 カウンター越しににらみ合っていたゴーシュが、突然腕を伸ばして私の手首をつかんだ。
 ぎりっと爪が食い込む。
「痛い目を見ないと分からないようですね」
 ゴーシュの濁った瞳と視線がぶつかる。汚い。なんて、汚い目……。嵐の前の雲の色のようだ……。
 怖い……。風が雨が人々を苦しめる……嵐……。
「痛い目を見るのはそっちだ!リリィーを放せ!」
 ガシャンと、アルが運んできたであろうティーカップが床にはじける音。そして、お盆がクワンクワンと床で弾む音が聞こえた。
 気がつけば、アルがカウンターの上に飛び乗っていて、剣先をゴーシュの喉元に突き付けていた。
「リリィーを放せ」
 腹の底から絞り出したようなアルの声に、剣先が今にもゴーシュののど元を貫きそうな迫力があった。
「くっ、覚えていろ!」
 ゴーシュが私の手を放し、後ろに後ずさる。
「上は黙っちゃいないぞ、素直にやめておけば良かったと後悔してもしらないからなっ!」
 捨て台詞を履いて、ゴーシュは手下を連れて店を出て行った。
 手下たちに荒らされた店の中は、まるで嵐の後のようで……。