メイシーがお茶を入れ終わったところで、口を開いた。
「あのね、いいことを思いついたんだけど……それについてどう思うか相談したいんだけど……」
ごくんと、紅茶を一口飲む。
「全ての子は、教会で洗礼を受けるでしょう?」
「ええ、そうですね。貴賤に関係なく受けますね」
とアル。
「教会のない村へは、年に1度国が神父を派遣してますからね」
政教分離という考え方が過去にあったことは歴史で習った。だが、現在は共存の道を歩んでいる。
教会は、人が生まれた時の洗礼と、亡くなった時の葬儀を無料で執り行ってくれる。それゆえ、どれほど貧しく寄付ができない人も教会を訪れる。
ゆえに「戸籍」管理の役割をしてくれる。洗礼時に、子供の名前を聞き、戸籍名簿に書き加えるのだ。そして、葬式で名簿の名前を消していく。
役人が、どれだけ人が生まれて亡くなったのか調査するよりも、信仰心を利用した方が正確なのだ。
教会は、洗礼式や葬式を”無料”で執り行った費用を「戸籍管理費用」として国から受け取ることができる。
「神父さんは皆、文字が書けますね……だから、洗礼式の時に、赤ちゃんの名前を札に書いて赤ちゃんに渡せないかと思って……」
エディが難しい顔をする。
「どれにどんな意味が?」
意味……。
「今日、お店にドナさんが来て、子供の名前を書いてほしいって依頼されたの。……子供に自分の名前くらい教えたいって……。それから、ドナさんは自分の名前を見て、とても嬉しそうにしてた……もっと、皆に喜んで欲しくて……私、」
皆の顔は厳しいままだ。
私の感動したことが伝わらない?
ううん、違う。まだ私の言葉を待っている。伝えないと。
意味……?
皆が喜んでくれたら私も嬉しい。
確かに、それに何の意味があるのかと言われれば……ない。私一人を幸せな気持ちにさせるだけの……私の自己満足のために教会を動かすなんて、できるわけがないのだ。いや。できるかもしれない、私の立場なら。だけど、宰相の娘の立場を利用してわがままを通してはいけない。
だからこそ”意味”が必要なのだ。
ドナさんの嬉しそうな顔……。
「文字が身近になれば……」
アルの言葉を思い出す。


