婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 番頭として、エディの腕は確かだと思う。
 きっと、エディがいてくれれば、確かに使用人を雇えるくらい立派な店にできるんだと思う……。
 もしかして、お嬢様である私が自らお茶を入れることで、エディの番頭としての矜持を傷つけちゃったのかな?
「白くて綺麗なリリィーの指が……」
 体を離したエディが、赤くなった私の指先を見ている。
「痛くないか?」
 違う、矜持を傷つけたんじゃない。私の身を心配してくれてるんだ。……。
「大丈夫だよ、エディがすぐに冷やしてくれたから。ありがとう」
 笑って見せると、エディがホッとした表情を見せた。

■14
「きゃぁっ、どうしたんですか、これっ!」
 階段からアルと一緒に姿を現したメイシーが悲鳴を上げた。
「お茶を入れようとしたら、その失敗してしまって……」
「リリィーがお茶を?」
 メイシーが額を抑えた。
「リリィー、文字が綺麗なこと以外で、女学園で何か褒められたことありましたか?」
 刺繍をすれば指を刺し、レースを編めば糸が絡まり首を絞め、楽器を手にすれば端から壊し……。わ、わざとじゃないよ。
 時々、小説のことを考えてボーとしちゃって、気が付いたら何かおかしなことになってるだけだもの……。
 上目使いでメイシーの顔を見ると、大きなため息をつかれた。
「リリィーには私がついているでしょ?なんのためにリリィーの侍女になったと思ってるの?もし、私を追い出したくなったら、その時は自分でお茶を入れてください」
「メ、メイシー。いつもありがとう。絶対もう自分でお茶を入れない。ずっと一緒に居てね!」
 思わずメイシーに抱き着く。
 後ろからエディのつぶやきが聞こえて来た。
「すごい手綱さばきだな……」
 アルが、ふぅっとため息をつく。
「”将を射んと欲すれば先ず馬を射よ”ってやつか……」
 はい?手綱とか馬とか、何でいきなり二人で戦争の話をしだしちゃってるの?
「さぁ、3人ともあっちへ行っていてください。片づけて、新しいお茶を入れて持っていきますから!」
 メイシーがシッシと言わんばかりに、私たち3人を店舗部分へと追いやった。
「手伝うよ、メイシー」
 アルが、割れたカップに手を伸ばした。
「結構です”アル様”」
 メイシーがギッとアルを睨んだ。
 あのね、アル、ああいう時のメイシーには逆らわない方がいいよ?
 後でアルに教えてあげようと思う。