婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 顔を上げると、上半身裸のままのエディがいた。
「急ぎじゃないから。服、エディ、服着て。下で待ってるよ!」
 するりと、エディの手から逃れて1階に降りて行く。
 そういえば、代読屋の建物に入るのは久しぶりだ。
 1階のキッチンには、代筆屋と違って、色々な物が置いてあった。エディが自分でお茶を入れて飲むのかな?それとも、メイシーがここでお茶を入れてあげてるのかな?
 ……。私も、アルにお茶くらい入れてあげられるようになった方がいいのかな?
 身分の上下は気にしないでと言ったんだから、お茶だって、手の空いた人がした方がいいよね……。
 かまどは使った形跡がないから、保温ポットにお湯が入ってるのかな?
 3重構造保温箱から、保温ポットを取り出す。そっと周りに手をかざすと十分な熱さがあるようだ。
 えっと、これを、ティーポットに注ぐんだよね。
 そうだ、お茶の葉が出るのを待つ間、カップをお湯で温めておくんだった。
 カップを並べて、お湯を注いで、それを流しに捨てないと。
「リリィー?何してるの?」
「ふえっ?!」
 驚いて、手に持っていたカップをひっくり返す。
「熱っ」
 カップの中に入っていたお湯が、指先にかかった。カップはそのまま床に落ち、ガシャンと酷く耳障りな音を立てて割れた。
「リリィー大丈夫か!」
 エディが蒼白な顔で、私の手をつかんだ。
 そして、流しの横に置いてある水がめの中に、手を突っ込んだ。
 ジンジンとかすかな痛みのある指先が水の冷たさで楽になる。
 水から出した私の手をエディが見る。
「ああ、リリィーなんてことを……赤くなってるじゃないか……」
「ごめんなさい。お茶を入れようとして……」
「二度とするな。リリィーはお茶を入れる必要はない……」
 エディの顔が怒りに歪んでいるように見える。
 そりゃ、失敗しちゃったけど……。私だって、少しは役に立ちたくて……。
 そんなに怒ることないのに……。悔しいような悲しいような気持ちになって、涙がこぼれそうになった。
「リリィー、俺が稼ぐから」
 ふいに、エディの両腕が私の背に回された。
「リリィーが、一生自分でお茶を入れなくてもいいように、使用人を絶えず雇えるように、俺が稼ぐから……だから、リリィーは……お茶を入れなくてもいいんだ……」
 ぎゅっとエディの腕に力が入る。
「エディ……?」