婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

「人に喜んでいることに幸せを感じられるリリィー……変わってない……」
 変わってない?
「でも、喜ぶのは後にしよう、ほら、お客さんがまた来たみたいだよ?」
 店のドアが開く。慌てて涙をぬぐって笑顔をつくる。
「いらっしゃいませ、代筆屋へようこそ」

■13

「メイシー聞いて!今日はね、5人もお客さんが来てくれたのよ!」
「本当?じゃぁ、そのお客さんから手紙を受け取った人が、代読屋に来てくれるかな?」
「いや、それはない……」
 名前を書いたドナさん以外、メニューを書いてほしいって注文だった。噂で聞いてうちの店にも頼むって。
「だけど、初めてのお客さんね!おめでとうリリィー!」
「ありがとう。代読屋は今日はどうだった?」
「うん、私は前にも伺ったことのあるご婦人のところで本を朗読したわ。エディは、教会に聖書の朗読に行ったのよ」
 教会?
 聖書の朗読?
「月に一度の朗読会なのに神父さんが喉を傷めたそうなの。それで依頼が来たんだけど、エディは断っちゃったわ」
「断ったって……」
「教会から金をもらうわけにはいかないって。朗読は仕事じゃなくって、ボランティアで行ったのよ」
 そっかぁ~。もらうところからはもらうけど、儲けが出ればそれでいいと考えているわけじゃないんだ。
 ん?教会?
 ……。
 あ、そうだ!いいこと考えちゃった。
「メイシー、ちょっとエディのところへ行ってくる!」
「え?ちょ、リリィー待ってください、あの、私も行きます!いえ、アルも連れてきます!」
「ああ、護衛はいらないよ、大丈夫!」
「だ、大丈夫って、大丈夫じゃないです!リリィー様!」
 部屋を一歩出ると、メイシーが私に様を付けて呼ぶ。この切り替え。メイシーの声を背に、いつものタペストリーとは真逆にある壁側のタペストリーをめくりあげ、ドアを開ける。
「あ」
 やってしまった。
 ラッキースケベエディバージョンです。
 エディの引き締まった背中がそこにはありました。
「ごめん、エディ。見てないから」
 ぱっと顔を伏せる。
「リリィー、何があった?ノックをする暇もないくらい急ぎの用なんだろ?」
 エディが、私の腕をつかんで、部屋に引っ張り入れた。そして、ドアとクローゼットのドアを閉める。
 あ、ノック……。そうだ。タペストリーの裏の隠し通路だという意識が強すぎて、部屋のドア的な意識が飛んでいた。