婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 んー、そうよね。じゃぁ、何が行けないのかしら?大きな看板も取り付けたし、営業中と分かるようにドアにぶら下げた一輪挿しに花も飾ってある。
「アル、お客さんも来ないし、好きなことしてていいよ。私は読書してれば幸せだけど、アルは退屈でしょう?」
「いいえ、リリィーが読書しているのを見ていて退屈などしませんよ?」
 何、それ。
 もしかして、私、本を読みながら百面相してる?……してるかもしれない。悲しい場面では眉が下がるし、スカッとする場面では笑顔になるもんなぁ……。
 いやぁねぇ、人の百面相見て楽しむなんて……。悪趣味すぎるっ!
 ぎっとアルを睨み付ける。
「見られていると、落ち着いて読書できないの!だから、アルは別のことしてて!」
「ごめん、リリィー、読書の邪魔して……」
 アルが店舗部分の奥の扉を開けて出て行った。
 シュンっと肩を落とすアルの後姿……。ちょっと強く言いすぎたかな?
 ……。
 本をぺラリとめくる。
 ……。
 アル、何してるんだろう?
 ……。
 よしっ!読書はおしまいにしよう!
 本をパタンと閉じて、机の引き出しにしまう。店舗の奥の扉を開けるとキッチンだが、そこにアルの姿はなかった。2階?
 あれ?
 キッチンの奥から光が漏れているのが見えた。近づいてみると、扉がある。開くと、そこには裏庭があった。
 ロゼッタマノワールは敷地の奥も建物になっているが、ここは違うらしい。
 建物の影になっている部分には井戸があり、光が当たっている部分には花壇があった。そして、その横でアルが剣を振っていた。
 でたらめにただ振り下ろすだけの剣ではない。
 力を入れる、抜く、剣を振る、止める、薙ぎ払い、受け止める……。実践を想定した動きだろうか。
 剣を振る腕の筋肉が躍動している。
 綺麗。
 小説の中では、こんなに剣の練習が綺麗だって書いてなかったよ……。
 日光に照らされて飛び散る汗も美しい。
 時折聞こえる剣が風を切る音が、まるで聖なる楽器を奏でる音のようだ。
 ふふ、何か私の表現詩的。もしかして文才あるかもしれない!小説……書いてみたいな。書けるかな……。
 うん、いつかアルをモデルにした人物を書こう。
 やっぱり設定は……国の復興のために、身分を隠した義賊。山賊の頭領だ。
 アルのが剣を振るのを止め、井戸に剣を立てかけた。そして、着ていたシャツを脱ぐ。