婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 メイシーが、背中に隠していた本をテーブルの上に置いた。
「夫人が貸してくださいました!」
「きゃーっ!メイシーありがとう!早速読む!」
 本に手をかけて、表紙を開く。
「で、リリィーの方は?代筆屋はどうだった?」
 へらりと笑うしかない。
「また、お客ゼロ?」

 さて。
 開店4日目。今日こそ、今日こそ一人でもお客よ来い!
 鼻息荒く、ロゼッタマノワールと代筆屋をつなぐ扉を開ける。
「待ってたよ、リリィー」
 クローゼットの扉の前で、笑顔のアルが出迎えてくれた。そして、いつものように、手の平にピンをのせて私に差し出す。
 初日に私がアルの前髪をとめたピンだ。自分ではうまくとめられないからって、毎朝頼まれるのだ。
 アルの前髪をかきあげ、ピンでとめる。このとき、アルの空色の瞳がすぐ目の前にあって、綺麗だなぁってうっとりしちゃうんだ。
「嵐の日も、アルの瞳を見れば、青空を思い出せるね」
 思わず、小説の一説みたいなことを口走って恥ずかしくなる。
 何言ってるんだろう、私っ!
 顔をそらそうとしたら、アルの手が私の頬に添えられ、再び視線が合った。
「雪深い日も、リリィーの瞳を見れば新緑を思い出せる」
 アル……。
 嵐の日も雪の日も……ずっと一緒にいようってプロポーズみたい。
 って、何考えてるの!
 小説だったら、わーすてきぃとか思うけど、私とアルはそういう関係じゃないし、深い意味はないんだからっ!
「さ、アル!今日こそお客さんをゲットしましょう!」
 1階に移動して、いつもの場所に座る。
 私は暇つぶし用の本も忘れずに持ってきている。メイシーが貸りてきてくれた本だ。
 うふっ。店番といいつつ、読書タイム!なんだか楽しい職場です。
 本をぺラリとめくる。アルはそんな私をじぃっと見ている。
 じぃー。
 じぃーーーーっ。
 えーっと、退屈じゃない?
 っていうか、そんなに見られると読みにくいんだけど!
 あうう、スイマセン。
 もしかして、一人読書を楽しんでいる私に対する無言の抗議かしら?
「ねぇ、アル、何故お客さんが来ないんだと思う?もう4日目なのに……料金が高すぎるのかな?」
「いえ、そもそも店内に誰も入って来ませんから、料金の問題ではないかと……」