婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 店舗には4人掛けのテーブル席が10ほど並んでいて、ほぼ満席だ。
「いらっしゃい、相席でいいかな?」
 私より少し年上に見える給仕さんに声をかけられた。シンプルな足首までの茶色のワンピースに黒いエプロンをしている。
 相席ってなんだろう?と思いつつ、頷けば、すぐに近くのテーブルに案内される。
「相席お願いしまーす」
 すでにテーブルには2人のおじさんが座っていた。
 おじさんたちは、了解を示すように手を軽く上に挙げた。
「お客さん、うちの店初めてですよね、何にします?飲み物は、果実水か酒。食べ物は、肉パンかランチ」
「あの、食べ物を頼みたいんですが、いくらですか?」
「肉パンが3セイン、ランチが6セイン。ランチにパンはついてるけど、足りない時の追加のパンは1セインね」
 長い赤毛を頭の高い位置で結んだ給仕さんが、指で数字を立てて説明してくれる。
「「安い」」
 思わず、アルと声がハモる。
 パン1つが1セイン。1セインって、銅貨1枚だったはずだ。
 パン1個の値段は1セイン。アルが契約書の代筆の相場は金貨1枚、つまり1000セインって言ってたよね……。
「安い?このあたりじゃ普通の値段だよ。もしかしてお客さんたち、この街、初めて?」
「あ、うん、そうなの。王都から昨日到着したばかりで……」
 あははと笑ってごまかす。
「そっか。王都はパンの値段はもっと高いのね。で、何にする?」
「じゃぁ、えっと、ランチと果実水……アルもそれでいい?」
 アルが頷いたのを確認すると、給仕のお姉さんにお願いした。
「じゃぁ、18セインね」
 計算早いなぁとか思ってぼんやりしてると、お姉さんが「ああそうか」という顔をした。
「王都ではどうか分からないけれど、この街の食堂はどこも先払いだから」
 お金!そうだ、お金も自分で払わないといけないのよね!ポッケの硬貨をひっつかんで出す。
「「これで」」
 テーブルの上にアルと同時に硬貨を置いた。
 それを見て、給仕さんが驚きの声を上げた。
「え?いやいや、王都ではこれが普通なの?それとも、王都の食堂って金貨で支払わないといけないくらい高いの?」
 私が出したのは金貨。アルが出したのも金貨。
「うはー、お嬢ちゃんたち金持ちだねぇ」
 相席のおじちゃんが目を丸くした。