婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

「私は安くしたいの。街の人たちが気軽に手紙を贈りあえるようにしたいの。そうねぇ、パン1つ買うのと同じくらい気軽に代筆を頼んで欲しいんだ。ねぇ、アル、パンっていくらかな?」
 アルから返事はない。
 あれ?アルもパンの値段、知らないの?
 ぐぅ~~~。
 はうっ。
 パンなんて単語を出したからなのか、お腹が鳴った!
 お店の準備に夢中になって、とっくにお昼の時間過ぎてたよっ!いつも侍女が知らせてくれたけど、ここで店をする限り、そうもいかないのね。
「アル、お昼ご飯食べに行こう!」
「え?食べにって、まさか、街に、ですか?」
「そうよ。パンの値段も分かるし、お腹も膨れるし、出会いもあるかもしれないし、一石三鳥だよね!」
 そうよ!せっかく市井で生活するのに、店に籠ってたらダメよね!街に出なくちゃ!
 ふふふっ。小説だと「お嬢ちゃんかわいいねぇ、お兄さんと遊ばない?」って無法者に絡まれて、ヒーローに助けられて恋に落ちたりするんだよね!
 街には出会いがあふれているのよ!
「お嬢さん」
 おっ、早速出会いの予感!
 声のした方に顔を向けると、いかにもガラが悪そう……ではない、普通の青年が一人立っていた。
「ご一緒にお茶でもいかがですか?」
 あら、これは絡まれるパターンじゃなくて、ナンパ?
「リリィー」
 アルの腕が、私の肩を抱いた。
「なんだ、彼氏付きでしたか、これは失礼」
 ナンパ青年は、アルの顔を見ると背を向けて去って行った。
「彼氏?」
 ち、ち、違うの!彼氏じゃないの!護衛よ、護衛!
 待ってぇ~、私の初ナンパァァァ!
 ……。
 アルがいる限り、ナンパで出会うとか、暴漢に襲われているところを助けてもらって出会うとか絶望的じゃない?
 アルの顔を恨めしそうに見る。
 再び前髪は降ろされていて表情は読み取れない。だけどちょっと寂しそうに首をかしげている。
 ……アルは、職務を全うしてるだけだもんね。仕方がない。別の出会いに期待しよう!



「よし、今日はそこの店!」
 代筆屋の、道を挟んだ真正面の食堂を指さす。
 街は憧れだけど……でも、いきなり見て回るのは実は正直、少し怖い。
 小説の中に出てくる市井しか知らないんだもん。
 看板にジョッキと皿とスプーンが描かれているから、食堂で間違いないだろう。
 両開きの大きなドアを押し開いて中に入る。