婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 そっか。人前で顔出すのはやっぱり苦手なんだ。
「さぁ、一刻も早くお店の開店準備を進めましょう!」
 1階に降りて、店舗部分に足を踏み入れると、昨日の埃っぽさはもうなかった。
「ありがとう!すっかり掃除してくれたのね!」
 嬉しくてクルクル回りながら店の中を見て回った。
「随分やる気ですね?」
「ふふっ。だって、早く素敵な恋がしたいんだもの!」
「リリィーは今まで、恋をしたことは無いの?」
「そうよ。初恋もまだなの……」
 アルの瞳が微笑みに変わる。
 笑われてる?
 15歳にもなって、来年は成人なのに、恋もまだなんて……。
 だけど、幼いころから婚約者が決められてる貴族にとっては普通だと思うの。だって、婚約者以外の人に恋しても、辛い思いするだけでしょ?
 って言いたいけど、私が公爵令嬢っていうのはアルには内緒だし。
「アルは恋したことあるの?」
 反論もできなくて、つい頬を少し膨らましてしまったのは仕方ないよね?
「ええ、もちろん。好きすぎてどうにかなりそうです」
 熱を帯びたアルの目が、私の目に飛び込んできた。
 アルにこんな目をさせているのが、まるで私なのじゃないかと錯覚をするくらい……。アルの目は、愛おしい人を思って輝いていた。
 ああ、いいなぁ。私もいつか……そんな熱い目ができるような恋がしたい。
 こんな目で、見つめられたい。
「そっか。アルは恋愛面では先輩なんだね。……私が、恋に悩んだら相談にのってね?」
 ニコッと笑うと、アルは嫌そうな表情を浮かべる。
 うえー、何?女性の恋愛相談は受けたくないってことなの?!
 まぁ、確かに、うん、小説にもそんな描写があったなぁ。
 彼氏のことをさんざん愚痴った翌日には、寄り添って歩いているとか。だから、女性の恋愛相談には乗らない方がいいのだ……だったかな?
「さぁ、店の準備を進めましょう。僕は何をすればいいですか?」
「うーん、そうね……代筆屋に必要な物は、紙とインクとペンよね……。うん、そうだ、こっちにいろいろな紙をおきましょう!ラブレターだもん。紙も選べるといいわよね!」
 昔何に使われていたかは分からない。少し背の高い丸テーブルに、色々な紙を展示販売することにした。
 識字率が低いこともあって、紙の流通量は少ないはずだ。紙を扱っている商店も少ないはず。