婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 うっかり異性の裸を見てしまうことは、あるんだよ!
 こんな時にはどうしたらいいんだっけな?小説では……。そう、定番の台詞があった。
「わざとじゃないんです」
 あ、しまった。
 わざとじゃないんだって台詞に続きは、「すけべっ」とののしられた上に、良くてビンタ。悪くて鉄拳くらうんだった……。
「わざとでもいいですよ?」
 シャツを身に着けたアルがクローゼットの前まで戻って来た。
 はい?
 こんな返し、私知らない!
「でも、僕以外の裸は見ちゃだめですよ!」
「あ、うん。分かった。ビンタされるといけないもんね!」
「ビンタ?」
 アルが首を傾げた。



「あれ?アル、髪をまとめたのね?」
 アルのもじゃもじゃの髪が、綺麗に後ろでまとめられていた。
 それに、髭も昨日よりは切りそろえられていて、もじゃもじゃ感が減ってる。
「えっと、その、山賊みたいでは、お客さんを驚かしてしまうかと……」
 ふおっ。
 もしかして、私がうっかり山賊って言っちゃったの気にしてた?
「前髪も留めるともっといいかも」
 メイシーに結い上げてもらった髪から、1本ピンを引き抜き、アルの前髪をかきあげた。
「あっ……」
 目元がイケメンだ。大きくて彫の深い。眉は整えたみたいにシュッとしてるし。まつげも長い。
 それに、瞳の色が……。
「綺麗な青。アルの瞳、空みたいな色ね」
 アルの手が、前髪をかきあげてる私の手に添えられた。
「空みたい……ですか。同じことを言うのですね」
 同じこと?誰かにも言われたことがあるのかな?
「リリィーの瞳は新緑みたいですね」
「ふふっ、ありがとう!エメラルドみたいって言われるよりずっと嬉しい!」
 アルの前髪をピンで留める。
「コッチの方が好き」
「えっ?す、好き?」
「せっかくの綺麗な目だもん。見えてた方が絶対いいよ。あ、でも、もし人見知りとかで前髪で目元を隠してないと落ち着かないっていうのなら、無理にとは言わないけど……」
 そういう小説の主人公がいたんだよね。
 なんか幼少時に容姿のことで傷ついて顔を隠すようになった少女の話。
 実は、少女を好きな男の子が照れ隠しに顔が気持ち悪いとか言っただけと分かって、ハッピーエンドになる話だったけど。
「そうですね、あまり人前で顔を出すのは……でも、リリィが好きだと言ってくれるなら、2人でいるときはこうしてます」