婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 今まで3度婚約したけれど、会う時には侍女とか誰かに付き添われていたし……。
 あうっ。急にドキドキして来た。
 扉の向こうには、店の質素な作りとは不釣り合いなほど立派なベッドが置かれている。
 清潔そうなシーツが掛けられ、柔らかそうな枕も載っている。
 ベッドの上に、アルの着替えが何着か脱ぎ捨てられてる。
 うわー、脱ぎ捨てられてそのままの服なんて、初めて見た。
 公爵家では、服を脱ぐのも着るのも侍女が付くから、脱いだ服をそのままにしておくなんてありえないもんね。
 思わず目が釘付けになる。
 ああ、いけない。私ったら、はしたない。
 いつの間にか、アルは壁に取り付けられているクローゼットを開けて、その奥の壁をスライドさせた。
 え?クローゼットの奥の壁がスライドして穴が開くの??
「さぁ、こちらへどうぞ」
 中を見れば、赤いじゅうたんが敷き詰められた長い廊下が見えた。
 あれ?
 確か、この部屋、廊下の一番奥で、このクローゼットは建物の外壁の場所だよね?なんで、その奥に廊下が?
「おかえりなさいませ、お嬢様」
 にゅっと、一番近い扉が開き、ロッテンさんが姿を現した。
「ひやぁっ!」
 思わず声が出る。
「本来は、護衛が緊急時に駆けつけるための通路ですが、隣の建物でお店を営むということでしたら、お部屋への出入りはこちらからお願いいたします。ロゼッタマノワールとの繋がりを隠すためにはその方がよろしいかと」
 そっか。
 毎日出入りしてたら、ロゼッタマノワールの関係者って丸わかりだよね。
 こんな風に2階の隠し扉でつながってるとは……。

 ロッテンさんが、アルに綺麗なお辞儀をしてから扉を閉めた。
 ロゼッタマノワール側の扉は、大きなタペストリーで隠れるようになっている。ふむ、なるほど。
「リリィー様、お部屋は整えてあります」
 部屋からメイシーが顔を出した。部屋に入ると、王都にある屋敷の自室とほぼ変わらない。うん、本棚にはしっかり蔵書も並べてある。
 メイシーに「グッジョブ!」と指を立て、早速読もうと手を延ばす。
「リリィー様、長旅でお疲れでしょう」
 伸ばした手をロッテンさんに有無を言わさぬ目で止められた。うん、目だけで、人の動きは止められるんだよ……。
 ど、読書タイムぅ~!
 風呂、着替え、食事、そしてあっという間に布団の中。