偉大な魔術師が魔力を練り上げて作ったとされるその柵は、何人たりとも侵入を許さない。

 防護柵には扉が一つ。鍵が一つ。

 その鍵を守る一族こそが森守であり、ヴィリニュス家なのである。

 防護柵の鍵はヴィリニュスの鍵と呼ばれ、ヴィリニュス家の当主が肌身離さず持ち歩くのがしきたりだった。

 だが、五年前。
 事件は、起きた。

 ヴィリニュス家の当主でありエディの祖母であったエマ・ヴィリニュスが、鍵を持ったまま行方不明になったのだ。それも、防護柵の扉を開け放ったまま──。

 トルトルニアの精鋭たちが魔の森を駆け回ったが、エマの痕跡は全く見つからなかった。

 もちろん、鍵の行方も分からないままである。