「えっ、いいよ」

「えっ、いいの!?」

桜山公園、ケバブ広場(僕が勝手にネーミング)にて。


ユウがレモンシャーベットにかじりつきながらあっけらかんと答えた。隣では暑苦しくも回る肉をヒゲモジャが器用に削いでいる。


「ぴっ、ピーターパンだよ?」

「ああ、あたしミュージカルとか別にきょーみないけどさぁ、暇つぶしになるし。ケンケン面白いし」

「は、はぁ」

思わぬ答えが返ってきて、僕は動揺が隠しきれずに買ったばっかのアップルサイダーを地面に落とす。


その様子を見てユウはいつも通り大口を開けて笑っていた。


「トーキョー国際フォーラム……どこだよ」

「いっ行き方なら僕分かるよ」

「あっ、もしかしてケンケン車持ち!?」

「いやチャリしか……」

「けっ」


「うぅ、ゴメンナサイ」

「あはは嘘うそ! あたし車あんま好きじゃないし、つーかあたしと一緒にドライブとか10年はえーし!」


「はいはい。じゃあ明日の10時に日野駅前で待ち合わせね」

「はーい!」



太陽の下で笑うユウ。

今日はレモンシャーベットよりも鮮やかな黄色いハイヒールを履いてるね。


ああ


まだこの時は何も知らなかったんだ。強い日差しでよく見えなかったのかもしれない。

本当はユウが、そんな一つ一つの仕草の裏側で、膝を抱えて泣いていたなんて。