「……」

「どうしたの、イーリス? 鼻がひくついているわよ」

「美味しい匂いが……」


王妃の宝石箱を整理しながら、私はゆっくりと顔を巡らした。
侍女仲間たちは溜息をついて黙々と作業を続けている。


「手がお留守よ」

「もう、貸して。食べても困るし」

「……いい匂い」


猛烈な誘惑だった。
今までこんな事はなかった。
 
なぜ今日、王妃の部屋の近くにこんな甘い匂いが漂ってくるのか。


「近づいてくる……!」