「あ!東!シングルマザーだったって本当?」

ぶっ!思わず食べていたオムライスを吹き出しそうになる。

「…進藤、その噂、違うから」

私の代わりに奈美が答えてくれる。

ここは森野食品本社7階の社員食堂。

私はここの総務部で働く東芽衣子(あずまめいこ)27歳。

同じく総務部で同期の奈美とランチ中、営業部の進藤が突然この不躾な質問を投げかけてきたのである。

ちなみに彼も同期だ。

ブー、ブー、ブー。

その時、左ポケットに入れていたスマホが震えた。

取り出してタップすると、姉の夏菜子からだった。

『芽衣子、ごめん!今日創太のお迎えお願いできる⁉︎緊急オペで人手が足りなくて、定時で帰れなくなった』

『大丈夫!私は定時で帰れるから、創太迎えに行ったらうちで預かっとくね!夕飯も一緒に食べとくー』

とすぐさま返信する。

私には3歳上の姉がいる。5年前、7歳年上の商社マン孝志さんと結婚して、2人の間には創太というもうすぐ4歳になる息子がいる。

姉は看護師をしていて、勤務時間の融通は利かせてもらっているが、たまに患者さんの急変やら急患やらでどうしても帰れなかった時にこうして私にヘルプの連絡が来る。
 
「進藤、私シングルマザーじゃない。それ私の子供じゃなくて私の甥っ子ね。姉の息子なの」

テーブルの上に身を乗り出して興味津々の進藤に、冷静に訂正を入れる。