「……つーわけで、パパは今日は優を連れて行けません。だから優はお留守番担当だ」
「うん! ゆう、おるすばんがんばるよ!」
「よしよし……いいな? もう一回、確認するぞ? 誰が来ても絶対に玄関は開けちゃダメだ。樹久なら合鍵持ってるから勝手に入って来る。わかったな?」
「うん! わかった!」
「じゃあ、行ってきます。良い子にしてるんだぞ?」
「うん! いってらっしゃい、ぱぱ!」




***





 父子がそんなやり取りを交わしてから、約一時間が経過した。

 初めて一人で留守番をするというのは、やはり心細いものである。優は父を見送った後、テレビはもちろん、手の届く範囲で家中のありとあらゆる電気をつけ、リビングの片隅でぬいぐるみの『真ちゃん』と一緒に座り込み身を寄せ合っていた。

 しばらくすると、突然――ガチャガチャッ、カチンッ!と玄関を解錠される音が響く。
 同時に、優の小さな肩はびくりと跳ね、一歩また一歩と確実にリビングへ近づいてくる足音を聞きながら『真ちゃん』を力いっぱい抱きしめた。

 いったい誰が侵入してきたのだろうかと幼い優の心には大きな恐怖心が根を生やし、もしもの時のためにと身構えるより前にリビングの扉はゆっくりと開かれ、ある男が顔を出した。


「やっほー、優ちゃーん! 良い子にしてたかー?」


 現れたのはロリコン……いや、“自称”優の将来の旦那である、樹久(きく)だった。
 将来の旦那、の最後には勿論(仮)と(笑)が付く。


「きっちゃん!」


 侵入者が樹久だとわかるやいなや、優は彼の元へ駆け寄り、小さな体で腰にひしりと抱きついた。
 樹久はそんな優の頭を「よしよし」と言いながら優しく撫でてやる。


「優ちゃんってば相変わらず可愛いなぁ……もうホントに嫁にしたい!」
「きっちゃん! ゆう、いっぱいひとりでおるすばんしてたんだよ!」


 幼い少女は瞳をキラキラと輝かせ、自信満々に言い放ち樹久を見上げた。


「さすがだなー、偉い偉い! 今からはお兄さんと一緒に楽しくラブラブお留守番してよーな! あっ、そうだ! ご褒美に、樹久ちゃんがチューしてやろうか?」
「……? ちゅー?」


 樹久が唇を尖らせると、優は仕草を真似をしながら首を傾げる。


(ハーッ!! 今日も推し天使が可愛いなー!? 生きるのが楽しい!!)